星間移動には1週間以上の時間を要する。チェッカー傭兵団の再建に従事するロマニウスは移動時間を無駄にすることなく、同組織に所属していたメック戦士の経歴を確認していた。現在、レヴィン時代のメック戦士を続けているのはシモヤカのみであり、優秀な人材の採用が急務であったからである。
レヴィンにメック戦士として採用される以前のシモヤカは貧賤な詐欺師であった。享楽的な生活を送ってきたシモヤカには浪費癖があり、レヴィンと出会った頃には既に巨額の借金を抱え込んでいた。
多額の負債があったにもかかわらず自分と他人を騙し続けるその日暮らしの生活を改めなかったシモヤカであったが、彼には特別な才能があった。つまり、彼は天性の嘘つきだったのである。当時のチェッカー傭兵団には正々堂々と戦うメック戦士はいたが、敵の裏をかける策士はいなかった。
シモヤカの特殊な才能に目をつけたレヴィンは、彼の借金を肩代わりすることでこの欺瞞者を仲間に加えたのである。シモヤカは信頼できる男ではないが、長い間チェッカー傭兵団に不可欠な人材であり続けた。
シモヤカには他に行き場がなかったため、レヴィン暗殺後もチェッカー傭兵団に残留した。そして、レヴィンのような強力な指導者がいなかったことに乗じて傭兵団の資金を横領していた。シモヤカがチェッカー傭兵団の抱える金銭問題の一因であることは否めないが、人材不足に直面するロマニウスは彼を解雇することができなかった。
そんなシモヤカ以外の人員を確保するため、過去に所属していた団員の履歴書を確認していたロマニウスの目に一人のメック戦士がとまった。その男の名はタケッチ、現在は近隣のベレロフォンの食品会社「ユーバー」に勤務している。
チェッカー傭兵団時代、タケッチは他の誰よりも機動性のあるメックを見事に操り、彼が得意とするサッカーを遊ぶように戦場を縦横無尽に駆け巡ったという。その素早さからついた二つ名は「チェッカーの虎」であった。
レヴィン暗殺後にチェッカー傭兵団を抜けたタケッチは、いつまでも命を削る生き方はできないと悟って「ユーバー」という一般企業に就職した。オーリガン領域で有名な食品輸送会社である「ユーバー」で安定した生活を手にしたタケッチであったが、単調な毎日が「虎」の心を満たせるはずがない。そう考えたロマニウスはベレロフォンへ向かった。
ベレロフォンでロマニウスはタケッチに接触し、彼をチェッカー傭兵団にスカウトした。新司令官の予想通り、「虎」は安定した毎日から抜け出したいと思っていたようで、再入団を受け入れてくれた。しかし、それには一つの条件があった。その条件とは、タケッチの幼馴染であるクラゲを解放してチェッカー傭兵団に加えることであった。
タケッチと同じトルトゥーガ出身のクラゲもチェッカー傭兵団の一員であったが、自主的にチェッカー傭兵団から抜けたタケッチと異なり、クラゲは逮捕されたため脱退を余儀なくされた人物であった。
危険な小児性愛者であったクラゲは戦争孤児などを誘拐しては性的虐待を繰り返していた。レヴィンの注意も無視して傭兵団の行く先々で性犯罪を犯し続けていたクラゲは、ある時、男児に性的暴行を加えているところを地元警察に見つかり捕まったのである。以来、クラゲは惑星アロウェイの刑務所に収監されていた。
ロマニウスはクラゲを仲間に加えることに前向きではなかったが、人材不足に悩まされるチェッカー傭兵団に選択肢はなかった。クラゲを助けることでチェッカー傭兵団は二人のメック戦士を仲間に加えることができるのである。
良心の呵責を感じながらも、ロマニウスとシモヤカ、タケッチはアロウェイの刑務所を襲撃してクラゲを助け出した。こうしてチェッカー傭兵団は4人のメック戦士による小隊を編成することができるようになった。
最低限の人員を揃えたチェッカー傭兵団は、巨額の借金返済のため、辺境星域で海賊退治の任務を受けて日々を送っていた。そんなチェッカー傭兵団のもとに地方の有力者からの依頼が舞い込んできた。依頼主はカノープス統一政体の王族、任務内容は船の回収、報酬は借金全額の肩代わりであった。
任務内容はあまりにも簡単すぎ、報酬はあまりにも良すぎた。この依頼に裏があるのは明らかだ。ことにこの依頼が正規のルートを通していない個人的な連絡でなされたことは、陰謀の存在を裏書きしていた。だが、借金で首が回らないチェッカー傭兵団に選択権はなかった。千載一遇のチャンスを逃すわけにいかないロマニウスは、怪しい依頼を受けいれることした。
案の定、任務は簡単に終わった。目的の船である「アルゴー」号は海賊基地にあったため、チェッカー傭兵団は初めに海賊を殲滅する必要があった。
ロマニウス率いる小隊は海賊基地のタレットを無効化し、車両部隊を撃滅した。海賊たちは手持ちの脆弱なメックを投入したが、それらはチェッカー傭兵団の敵ではなかった。
車両やメック部隊の撃滅を確認したカノープス軍は歩兵を派遣して海賊基地を制圧した。
ロマニウスは自らアルゴー号に乗り込むためメックを降りて、海賊基地に入っていった。
捕虜を横目に火薬の匂いが残る海賊基地を歩くロマニウスの耳に甲高い女性の声が聞こえてきた。
「ちがうんです、ちがうんです!わたしは海賊ではなくてぇ、海賊に捕まったというかぁ、たまたま居合わせったていうかぁ、とにかく海賊じゃないんです!だから、解放してくださいよ!」
その声の方を向くとピンク色の髪をした女性がカノープス兵と揉めているのが見えた。彼は興味を覚えながらも任務を優先して「アルゴー」に向かっていった。
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