ロマニウスはアルゴー号でカメア・アラノと予期せぬ再会をした。死んだと思われていたオーリガン連合の姫様が、一体、古い宇宙船で何をしていたのか。しかも、この宇宙船は海賊の基地にあった。彼女は海賊と関係があるのだろうか。
困惑した表情をしているロマニウスに、仕事の依頼主であるカノープス統一政体のアナ・マリア・セントレラと仕事のターゲットであったカメア・アラノが状況を説明した。
曰く、カメア・アラノの搭乗している船が破壊されたというニュースはエスピノーザ家による偽情報であり、彼女は一部の支持者と共に身を潜めて再起の時を待っていたという。
そして今や再起の時が到来した。つまり、ロマニウス率いるチェッカー傭兵団がアラノ卿復位を支える「復権の剣」となり、不当に権力の座を奪い取ったエスピノーザ家からオーリガン連合を取り戻す時だ、というのである。
この話を聞きながらもロマニウスは困惑の表情を変えなかった。当初、チェッカー傭兵団がカノープス統一政体と結んだ契約は、アルゴー号の回収であったはずだ。この任務を終えればカノープス統一政体は、チェッカー傭兵団が抱える巨額の負債を支払ってくれるはずであった。
それがどうだうか。今度はカメア・アラノ卿の復位に手を貸せときた。そして、彼女の復位に手を貸すことでチェッカー傭兵団は借金から解放されるという。言い換えるならば、カノープス統一政体がカメア・アラノ卿を傀儡として辺境宙域での影響力拡大することに協力しなければ、チェッカー傭兵団は借金地獄から抜け出せないのである。
ロマニウス司令官はカノープス統一政体の影響力拡大を快く思っていなかった。また、海賊との関係を匂わせるアラノ卿に協力することにも気が進まなかった。何よりも人を騙すような両者のやり方が気に入らなかった。歴史を学んでいたロマニウスは、権力者が優秀な人材を利用して不要になったら謀殺してきた過去をよく知っていった。
ロマニウスはかつてはカメア・アラノ卿の元親衛隊であったが、親衛隊員としての彼の仕事はエスピノーザ家のクーデタの日に終わった。以降、彼はチェッカー傭兵団を預かる司令官として部下に責任を負う立場となっている。
ロマニウスはカメア・アラノを嫌いだったが、チェッカー傭兵団を借金から救うためには、この仕事を受けなければならなかった。彼はアラノ家への忠誠心からではなく、チェッカー傭兵団を救うカネのために働くのだ。
「貴族の血を引く僕が忠義ではなくカネのために働くとは……」
カメア・アラノの話を聞きながらロマニウスは心の中で冷笑した。
カメア・アラノは一通りの話を終えると今後のことについて話し始めた。
「まずはウェルドリィの監獄を襲います。そこにはエスピノーザ家に捕らえられた政治犯が収容されています。彼らを解放する作戦はオーリガン復権派の初戦として相応しいと思わなくて?」
こちらに選択権がないにも関わらずカメア・アラノはレトリカルな質問をしてきた。
以前の高潔なロマニウスは監獄を襲撃することには同意できなかったであろう。
だが、クラゲ救出のために牢獄を攻撃していたロマニウスはカメア・アラノの提案に首を振った。
「あなた方のメック隊がまず敵のメックとタレットを排除して道を拓いてください。その後、私が復権派を率いて囚人を救出します。なのであなた方は敵のメック排除だけに集中してください」
「それともう一点。あなた方には既に優秀なメック技術者がいると思いますが、今後、エスピノーザ派との戦争が始まると、技師の手が足りなくなるでしょう。なので、あなた方に追加でもう一人優秀な技師を貸しましょう」
そうアラノ卿が言い終わると、彼女の背後から眉毛の太い眼鏡の男が現れた。
彼を見たチェッカー傭兵団の古参兵たちは声を揃えて叫んだ。
「ジンベェ!」
ジンベェと呼ばれた男ははにかんで答えた。
「久しぶり」
ロマニウスは資料でヤンの前任者の主任技術者ジンベェの存在を知っていた。彼が加わってくれるのは心強い。
「感動の再開に水を差して申し訳ないですが、私はこれで失礼します。やらなければならないことが沢山あるので。それではウェルドリィで」
甘やかされた王族らしい傲岸さでアラノ卿はレパード級から去っていった。
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