フェロスの入植地を救ったシェパード少佐は、次の目的地であるノヴェリアへ向かう前に、近辺の星系を探索することとした。思いがけない発見や助けを求める人がいるかもしれないと思ったからである。
手始めにボイジャー・クラスターへ飛んだシェパード少佐のもとに例のごとくハケット提督からの指令が届いた。
「ファーストコンタクト戦争時に使用されていた探査機が、最近ボイジャー・クラスターで発見された。シタデル条約で禁止されている核兵器が搭載されているため、評議会の耳に入る前に回収してほしい」
銀河の権益を代表する評議会直属のスペクターである以前に、人類の権益を代表する連合の軍人であると自己規定するシェパード少佐は、提督の命令に従って惑星アゲビニウムに降り立った。そもそも、ファーストコンタクト戦争は連合が評議会に加わる前に戦われた戦争のため、評議会加盟国が批准するシタデル条約を適応させるのは「法の不遡及」の原則に反すると、自分を納得させながら……。
アゲビニウムに上陸して核を搭載した探査機の所在を探し当てたシェパード少佐は、違和感を覚えた。というのも、探査機がなぜか無人の地下施設の中に置かれていたからである。罠と分かりながらもシェパードが部隊を率いて施設に突入すると、悪役然とした高笑いが一帯に響いた。
「罠にはまったな、シェパード!わが名はエラノス・ハリエット、スキリアン強襲を率いた最強の宙賊だ。テルミナス宙域の支配者となるためエリジウムを攻撃した俺様だったが、貴様のせいで俺様は負け、笑い者となった。それ以来、貴様への復讐を入念に準備してきた。連合の違法な探査機を奪った俺様は、そいつを起動させたらお前が来ると確信した。さぁ、連合の核で死ぬがいい。ワッハッハッハッハ」
シェパードは空いた口がふさがらなかった。驚愕の理由は、スキリアン強襲の黒幕が生存していたからでも、連合の機密情報が犯罪者に漏れていたからでも、目の前の核が起爆するからでもない。人違いだからである!シェパード中尉は「トルファンの惨劇」を率いた下士官であり、スキリアン強襲には関係していないのだ!「トルファンの惨劇」の悪名が轟きすぎた結果、宙賊たちの間でシェパードは恐怖と憎悪の対象となり、それが今回の様な誤解を生みだしたのだろう。
「やれやれ」と思いながら冷静に核の起爆装置を解除したシェパード少佐は、地下施設から脱出し、MAKOでエラノス・ハリエットを爆散させた。
こうして滑稽な復讐劇を終わらせたシェパードはハデス・ガンマへ向かった。惑星トレビンで行方不明になった調査隊を探すためである。だが、シェパードの到着は遅すぎたようで、トレビンの調査隊は既にゲスの犠牲となっていた。悔しさをかみしめながらトレビンを去ったシェパード少佐は、近隣の惑星の犯罪者の拠点を一掃することで鬱憤を晴らした。
犯罪者退治に秀でるシェパード少佐は、続いて、要人の乗る宇宙船をハイジャックしたテロリストの討伐に向かった。
過去の企業や政府の政策により苦しむバイオティクスに対する補償を打ち切った人類改造研究審議委員会のバーンズ議長は、バイオティクスの怒りを買い、過激派のテロリスト集団の標的となっていたのである。バーンズ議長が捕らえられているMSVオンタリオに乗り込んだシェパードの部隊は、テロリストを排除して、敵のリーダーと対峙した。テロリストと同じようにL2インプラントで苦しむアレンコ大尉に説得された犯罪者たちは、銃を放棄し、バーンズ議長も支援の再開について検討することを約束した。
平和的に人質事件を解決したシェパード少佐は、「トルファンの殺人鬼」という汚名を返上できる未来を思い描きながらマルーン・シーに飛んだ。
カスピアン星系で漂流する貨客船MSVコーヌピアを発見したシェパード少佐は、生存者を探すために部隊を率いて乗り込んだが、彼が発見したのはゲスの襲撃を受けて無残な姿となっていた乗組員の抜け殻だけであった。またもやゲスに先を越されたシェパード少佐は、これ以上の犠牲が増えないように努力する意を固めた。
そんなシェパード少佐のもとにボストーク星系から救難信号が届いた。救難信号の発信源である惑星ノダクラックスに急行したシェパードは、フェロスで倒したはずのソーリアンの残滓と遭遇した。驚きながらもソーリアンの脅威を排除したシェパード少佐は、研究所でエキソジェニ社の研究員を発見した。ソーリアンの標本を基に研究を進めていたエキソジェニ社は、フェロスと同じくノダクラックスでも実験に失敗したのであった。
事件に関してエキソジェニ社の研究員は聴聞会に出頭する義務があると確信していたシェパード少佐は、ノダクラックスの生存者を連行しようとした。だが、事件を隠蔽したいエキソジェニ社の研究員は賄賂を提案した。そしてシェパード少佐が袖の下を受け取らないと分かるや否や、エキソジェニ社の警備員は銃を抜いて抵抗してきた。予想外の抵抗に直面したシェパード少佐は、応戦するほかなく、銃撃戦が終わった後の研究室には多数のエキソジェニ社員の死体しか残らなかった。
「賄賂を受け取っていれば、この人たちは死なずにすんだのか」と自問したシェパードは、「正義」とは何かという深い疑問を抱いた。銃を握る手を眺めながら、自分のしている事は正しいのかと懊悩する少佐は、自身の学のなさと哲学的素養の乏しさを恥じた。思えば、自分は軍という構造の歯車として色々なことをしてきた。ギャング生活の虚しさから逃げ出すために軍に志願したシェパードは、軍の命令こそが正義と信じて様々な命令に従ってきた。その極致が「トルファンの惨劇」であったことは疑う余地がない。こうして悩みを抱きながら、少佐の脳裏にカイル大佐のことが浮かんだ。軍人でありながらも「トルファンの惨劇」をきっかけに疑問を抱いて軍を批判するようになったカイル大佐は、精神病人として収監され、テロにも加担するようになった。自分とカイル大佐を無意識的に重ねた少佐は、一抹の恐怖を感じないわけにはいかなかった。
「どうしました少佐?」
仲間の声にハッとしたシェパードは、いつものように「何でもない」と不愛想に答え、銃をホルスターにしまった。「私はローマン・シェパードであってカイル大佐ではない。あれこれ考えるのではなく、行動して救える人を救うんだ」と自分に言い聞かせた少佐は、次の任務に向かうためにノルマンディー号に帰還した。次に立ち寄ったマタノ星系の惑星チャスカでゲスの犠牲となった入植者を目の当たりにしたこともシェパード少佐の決心をより一層固める要因となった。
ジェミニ・シグマで犯罪者の拠点を一掃したノルマンディー号は、ウディナ大使に進捗を報告するためにシタデルに一時帰還することとした。着艦したノルマンディー号から降りたシェパード少佐は、第五艦隊のミハイロヴィッチ少将の出迎えを受けた。連合軍の上層部からノルマンディー号の査閲を命じられた少将が直々に訪問してきたのである。得意の世渡り術で少将に好印象を与えた少佐は、続いてウェスターランド・ニュースの記者カイリーサ・アルジラニからのインタビューを受けた。右寄りのメディアであったため、人類至上主義的な内容の質問が多かったが、頭の回転の速いシェパードは無難な答えをすることができた。
ウディナ大使とアンダーソン大佐にフェロスでの事件を報告したシェパード少佐は、アサリの外交官ナサーナから宙賊にさらわれた妹を救出する任務を受けた。また、銃撃戦を展開して迷惑をかけたドクター・ミシェルの手助けをしたシェパード少佐は、シタデルでの補給も終え、再び辺境宙域へ飛んでいった。
アルゴス・ローの惑星メトゴスでゲスの先遣隊を撃破し、タントーでは謎の傭兵隊を倒した。傭兵隊長トン・アクタスの持っていた古いクローガンの鎧を回収したシェパード少佐は、詳しいことを知るためにレックスと話をした。偶然にもその鎧はレックスの先祖の所有物であったらしいため、少佐はそれを譲渡することにした。
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